STORY 02
新規顧客への
塗布型制振材の拡販
STORY 02
新規顧客への塗布型制振材の拡販

国内自動車メーカーから、
30年越しの初受注。

2020年、アイシン化工は新規顧客である国内自動車メーカーのA社から制振材を受注した。30年来、代々の営業担当が試みてきたが、ハードルが高かった新規参入。それを成功させたのは、まだ取引のない客先への技術者出向という大チャレンジと、部署を超えた連携による課題解決提案だった。

  • (左)営業企画部 部長
    勝野 智晶
  • (左中)新商品創出推進室
    企画グループ
    チームリーダー
    大西 洋
  • (右中)化成品技術部
    機能材グループ チームリーダー

    加藤 千依
  • (右)営業部
    中日本営業グループ チームリーダー

    福岡 正登
Chapter1

30年越しで巡ってきた、
新規参入の大きなチャンス。

化成品事業は、文字通り制振材や接着剤といった化成品を扱う事業だ。他事業が扱う摩擦材や樹脂部品といった製品が、自動車部品メーカーを経由して自動車メーカーに納入されるのに対して、化成品は直接、自動車メーカーに販売されるのが特徴だ。

A社は、コストや品質面での要求が細かく、新規参入が困難なことで知られていた。それでも化成品事業では、30年もの長期にわたり、代々の営業担当者が絶えることなく提案を続けていた。その結果、北米の拠点とは取引を開始できたものの、日本国内では依然、取引に至っていなかった。

2010年、A社が、新車種の生産立ち上げを控えているとの情報を得た。営業企画の勝野は、取引をスタートできる大きなチャンスだと見た。
「通常のケースでは、お客様が提示したスペック通りの製品を提案することしかできず、コスト競争になりがちです。コスト競争にならないために何をすべきかを考えました。」と勝野。
勝野や営業実務を担当した福岡がヒアリングを重ねる中で、A社のさまざまな部署から「塗布型制振材を扱う設備の知識がある人が来てくれたら」という声が挙がっていたのだ。

自動車に使われる制振材には、貼り付け型と塗布型と二つのタイプある。貼り付け型は板状のアスファルトシートを人の手で車体のフロア部分に施工するため、作業者に重筋作業を強いることになる。一方塗布型は、高粘度の液体をロボットで塗布するため、作業者の負担をなくすだけでなく、単位重量当たりの性能が高いため、車体軽量化ができ、燃費の向上にもつながる。アイシン化工の主力製品は塗布型で、A社も塗布型の導入を考えていた。しかし過去に塗布型を採用した実績がなく、どう使えばいいかのノウハウを持っていなかった。
化成品は、使い方次第で生産時の効率や発揮できる製品性能が大きく変わる。下手をすれば、「設備の制約があるために、最良の塗布条件が整わず、制振材の性能を引き出せない」といったことが起きてしまう。そうならないためにも、導入いただく前の段階から提案する営業プランを、勝野は描いたのだ。

Chapter2

「受注が決まる前に、客先に出向する」
という秘策。

設備の知識がある最適な人材が、社内にはいた。それが大西だ。大西は材料のプロであるのに加え、他自動車メーカーへの出向経験があり、「自社製品をお客様の工場で、最良の状態で使っていただくためには、どんな設備要件が必要か」を熟知している。その大西を出向させようと勝野は考えた。ただし、A社にとっては、それまで取引のない企業から、受注も決まっていない状態で技術者を迎えるというのは、異例中の異例。それでも勝野とA社上層部との交渉と、福岡の現場レベルでの橋渡しにより、実現が決まった。

大西は、A社の生産技術部門で、一から構築する新車種向け設備の検討に加わった。
「今回の新車種の工場を、A社は今後のスタンダードになる工場にしたいと考えていました。それを実現するために、制振材の塗布工程に関するA社の困りごとを聞き、解決にあたりました」と語る。

Chapter3

材料特性を引き出す設備要件を提案する一方で、
営業も信頼関係を構築。

困りごと解決の中で特に大きかったのが、ノズルの開発だ。液状の制振材の塗布に使うノズルは、一般的には、勢いよく水が出るホースの先端を指でつぶしたときのように、液状の材料が扇形に広がるタイプ。ところがその場合、ノズル先端からの距離によって扇の断面積、つまり塗布される面積が変わる。
「A社がそれを嫌い、一定の幅で出るようにしたいと言われるのです」と大西。
この課題の解決に社内で臨んだのが、化成品技術部の加藤だ。自身の経験と、先輩たちが過去に設計したデータの蓄積を参考に、要求を満たすノズル形状の設計と、その使用方法に適した制振材の材料設計の、両方を行った。
「何パターンものノズル形状を試作したくても、納期がタイトなので何度も試行錯誤するわけにいかず、設計段階で絞り込まなければなりませんでした。A社側にも実績がないので、塗布速度などの具体的な数値目標がないことにも苦労しました」と加藤は言う。

試作品のノズルが完成すると、大西が出向先でテストし、高速で塗布できるよう、液状の制振材が流れる配管の直径や、押し出すポンプの能力について、設備メーカーとの調整を行った。その結果、「この材料を、この設備で塗布すれば、要求を満たす品質と生産スピードを実現できる」と提案できたのだ。

ただし、そこまでの労力と時間をかけても、まだ受注が決まったわけではなかった。最終的にどのメーカーから仕入れるかを判断するのは、A社の調達部門。認められなければ、すべてがムダになる。そうならないための努力が、福岡によって続けられていた。
「こまめに足を運び、A社の厳しいコスト要求を、本音で聞ける関係を構築しました」と福岡。その努力と交渉力には、勝野も一目置く。調達だけではない。A社の生産技術部門や材料技術部門とも福岡は関係を築いて、困りごとを拾い上げ、大西や加藤へと橋渡しして応え続けた。

Chapter4

「製品+最適な使い方」という
付加価値あるソリューションを、
これからも。

2020年、全員の努力が実り、正式に受注が決まった。2022年現在、アイシン化工の制振材はこのA社の2工場で導入され、国内と北米に向けた2車種に採用されている。

「この事例のように今後も、化成品という製品に新たな付加価値を乗せた、より魅力ある提案をしていきたい」と勝野。お客様の工場の設備や使用方法に左右される製品だからこそ、それがきわめて重要だと、今回のプロジェクトで改めて実感したと言う。

技術者である加藤もまた夢を描く。
「化成品で、カーボンニュートラルやSDGsに貢献していきたい。硬化のために必要な焼き付け工程のエネルギー消費を低減できるような低温硬化塗料や、車両の軽量化に貢献できる塗布型制振材など、世の中に貢献できる製品を生み出すことが目標です」。
それらの製品もまた、職種を超えた連係プレーにより、性能を最大限に引き出す使用方法と合わせたソリューションとして、世に送り出されるはずだ。